スターリングエンジンは、19世紀初頭に、スコットランドの牧師ロバート・スターリングによって発明された人に優しい=安全な “熱空気エンジン”です。この当時はカルノー以前の時代でサイクル論もない時代でした。しかし、時は産業革命の真只中、 ジェームスワットの大気圧蒸気機関の高性能化を目指して、気鋭の技術者達が蒸気圧力の高圧化を競っていました。
しかし、当時は高圧(大気圧以上・・・当時は数気圧〜10気圧)に耐えうる蒸気缶を製造する鋳造技術が未熟で、鋳物に、 いわゆる“巣(空気泡)”ができ、そのために、高圧に耐えられず蒸気缶が爆発する事故が度々発生し、 多くの作業者が事故の犠牲者となりました。
その様な状況を憂いて、ロバート・スターリング牧師は、安全なエンジンを作り、世に送り出したと云われています。 このエンジンの生産台数は2000台とも云われ、広く普及しました。
このように、スターリングエンジンが発明されて約200年が経過しています。 その間蒸気機関や内燃機関のような爆発的な普及や発展にはほど遠いものがありましたが、 近年の地球温暖化防止の波に乗って実用化へ向かって大きな進歩が見られています。 この動きの一端をNHKニュース「おはよう日本」に見ることが出来ます(
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2.スターリングエンジンのメカニズム
ロバート・スターリングが考案したエンジンは、β形と言われる形式のエンジン(図1)でした。
図1 ロバート・スターリングエンジン(スターリングエンジンの理論と設計(山海堂)から引用) 図2 β形の模式図
このエンジンは図1の中で、“9”で示されるピストン(ディスプレーサーピストン)と“2”で示されるパワーピストンが、 互いに90°程度の位相差で動くように作られ、デイスプレーサーの側面とシリンダー内壁の間には隙間があり、 作動ガス(この場合は空気)がその隙間を通って自由に移動できる構造になっています。
したがって、デイスプレーサーが下方に位置しているときは、シリンダー内の空気は上方に集まり、加熱され、体積は増加し、 シリンダー内の圧力は上昇します。そしてその圧力が頂点に達する少し前で、パワーピストンが下方に押されはじめ(膨張過程)、 仕事が発生することになります。
また、その逆にデイスプレーサーが上方に移動すると、シリンダー内の空気は冷却され、収縮し、パワーピストンは上方に戻り(圧縮過程)、 デイスプレーサーは下方に移動してきます。このような一連の運動を繰り返し、エンジンは連続して動いていくわけです。
したがって、スターリングは、密閉空間内の空気を、2つのピストンに位相差をつけて動かして、エンジン内部の体積を増加・減少 (圧力の増減)させ、熱を仕事のエネルギーに変える仕組みを考案したわけです。実に巧妙なメカニズムを発見したと言えます。
現在スターリングエンジンの形式は、β形のほか、α形、γ形、ダブルアクテイング形、フリーピストン方式がありますが、 これらは熱力学的に同じサイクルに基づいています。
スターリングエンジンの特徴は、外燃機関であることです。したがってスターリングエンジンを加熱するエネルギーは化石燃料のほか、
各種バイオマスや太陽熱、廃熱が利用できる
ため、近年資源・環境の両面から大きな期待が寄せられるようになりました。
それゆえ、スターリングエンジンのメカニズムをやや広義に捉え、
密閉された空間内にある気体を、加熱、冷却によって膨張・収縮させ、 出力を取り出す仕組みを持った機械
と定義したいと考え始めています。そうすると、従来のスターリングエンジンから離れた発想が生まれ、 新しいスターリングエンジンが生まれるのではないかと思うからです。
最近、ようやく商用・量産エンジンが出現してきました。これからスターリングエンジンの時代が始まると考えていますが、 このような時代を迎えたいま、新しいエンジンメカニズムが生まれ、エンジン概念を変えて行くことが必要ではないのでしょうか。
4.1 バイオマス燃料
我が国では、森林が多く、また農業や工場、各種事業所、家庭から排出される廃棄物や汚泥などバイオマス資源が豊富に存在しています。 現状では。その大部分が利用されず処分されており、これらバイオマスをエネルギーとして有効に活用できる スターリングエンジンの出現が待たれるところです。
しかし、バイオマスの活用には、いろいろな問題があり、それらを解決することが急務となっています。
例えば木質バイオマスを例にとれば、ペレット燃料の資源は豊富にありますが、 我が国ではペレット燃料を活用する社会的な受け容れ環境がまだありません。そのためペレット燃料の生産をしても消費が進みません。 残念ながら簡単に利用できる環境が出来上がっていないのです。
バイオマス利用環境には、装置・システム弥燃料・燃焼に関する技術的問題のほか、バイオマス活用に関する法整備の問題もあり、 一言にバイオマスと言っても、手軽に利用できる環境作りには、解決しなければならない種々の問題ハードルが横たわっております。
とは言え、化石燃料の枯渇や環境問題を考慮すると、バイオマス利用は最優先課題の一つです。そして、 何よりも重要なことはスターリングエンジンが、バイオマスから電気を取り出す最も安価なシステムであることです。
バイオマスの特徴は少量、かつ多点で分散発生することです。それゆえ、その利用は輸送コストをかけない オンサイト利用が望ましいのですが、それを実現できるエンジンはスターリングエンジンをおいてほかにありません。
4.2 廃熱エネルギー
製鉄所、鋳物工場、窯業、エンジン(船舶、自動車)、セメント工場、など廃熱を大量に出す工場や事業所があります。 廃熱は捨てる熱であるので、これを有効利用できれば、経営コストの低減、エネルギー資源の節約、CO2削減などに大きく 寄与することができます。
スターリングエンジンは、単体で廃熱利用ができるツールです。それゆえ、私共普及協会では、 廃熱スターリングエンジンの普及に向け取り組んでいきたいと考えています。
4.3 太陽熱
太陽熱は無限のエネルギーです。米国では、2009年早々から量産・販売が開始されると云われています。
太陽熱の場合は、燃焼ガスのような高温と有害成分による被害は受けませんが、自然災害や厳しい自然環境変化による風化対策、 長時間故障なく作動し、保守作業を極力必要としないことなどが要求されると考えられます。また太陽追尾能力は必須です。
このような性能・能力を有するスターリングエンジンの発電効率は、ソーラーパネルよりも高く、 かつ太陽追尾により太陽エネルギーの利用効率が高いので、ソーラーパネルよりも高効率のシステムが作れます。
したがって、スターリングエンジンは太陽エネルギーを活用するのに最適のエンジンと言えます。
我が国のように多雨、多湿の国や日照が安定しない地域はともかく、
砂漠や乾燥地帯を有する米国やスペイン、中国、アフリカ、中近東の国々などでは、きわめて有効な発電装置であると思います。 それゆえ、ブッシュ大統領が太陽熱スターリングエンジンの推進について宣言を出しているわけです。
4.4 日本スターリングエンジン普及協会の取り組み
当普及協会では、我が国には未利用のバイオマスが多いことに着目して、バイオマス利用のビジネスモデルを構築しつつ、 それに向けたエンジン開発に取り組んでおります。とりわけスターリングエンジンを導入することにより、 事業者が大きな経済的利益を得ることができるビジネスモデルを構築することが重要であると考え、 会員企業と力を合わせて研究しております。
また、廃熱利用スターリングエンジンについては、ここにきて有力なエンジンが提案されてきました。それゆえ、 廃熱資源の調査を行うと同時に、廃熱エンジンを活用する用途開発とビジネスモデルを研究し、 廃熱スターリングエンジンを活用するビジネスの開発を進めて参りたいと考えています。
そして、このようなエンジン開発により、温暖化ガスの排出を低減する新しい産業技術とビジネスを創生することを目指しています。
1)
1816〜1820年
ロバート・スターリングにより発明。発明後しばらくの間、大いに普及。しかし蒸気機関の発達、内燃機関の出現で姿を消した。
2)
1930年代
オランダのフィリップ社がスターリングエンジンの静粛性に注目して、 軍用発電機やモーターボートのエンジンなどの開発を行う。これがスターリングエンジン 見直しの第1弾であった。
3)
1960〜1970年
(新技術誕生の時代)
ロンビック機構(R.J.Meijer博士)が発明され、スターリングエンジンの研究・開発が盛んとなる。
出力は数kW〜270kWにわたり、種々のエンジンが開発される。
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可搬式発電機
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GMでβ形の電気式ハイブリッド車の研究
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フィリップ社から冷凍機が商品化
4)
1970〜1990年
(大型プロジェクトの時代)
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ダブルアクテイング形式のエンジンが開発され、多気筒・大出力への期待、またサイクル論的に高効率であることも重視され、 欧米で本格的な取り組みが始まる。我が国も、オイルショックの影響から国家的取り組みが行われた。
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フィリップ・フォード共同で、自動車用127kW/4000rpm(4-215DAエンジン)のエンジンを開発し、 車載実験も実施。
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フィリップ・フォード共同で、自動車用127kW/4000rpm(4-215DAエンジン)のエンジンを開発し、車載実験も実施。
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我が国では、アイシン精機も自動車用エンジン開発に取り組む。
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米国は、DOEの自動車用エンジン開発プロジェクトで、MTI社が中心となり取り組む。 しかし、自動車用エンジンとしての実用化に見通しが立てられず、各国とも撤退。
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我が国は、1982〜1987年の間、「汎用スターリングエンジンの研究開発」プロジェクトを実施。 三菱電機、東芝、アイシン精機、三洋電機が参加。
5)
1990〜2000年
(死の谷の時代)
スターリングエンジンは、各国で国家プロジェクトとして取り組んだにも拘わらず、民生用エンジンの実用化に届かず、 その研究は下火になった。 特に我が国では、その傾向が強く、スターリングエンジンの開発に拘わった大企業はスターリングエンジンから撤退した。 いわゆる、何度目かの“死の谷”に入ったと言える。
6)
2000〜2020年
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海上自衛隊がそうりゅう型潜水艦(10艦)の水中でのエンジン発電機としてスターリングエンジン (スウエーデンKokums75kWエンジン×4) を採用。
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米国INFINIAが商用エンジン(RG1000、出力1kW)を開発。
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ENATEC・リンナイ・INFINIAの3社は、RG1000の量産エンジンの開発研究開始(2005)。
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リンナイ・ENATEC(蘭)・BBT(独)・MTS(伊)が家庭用CHP開発開始(2007)。
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ニュージランドのMeridian Energy LimitedとスペインのMondragon Corporacion Cooperativaは ベンチャージョイントを立ち上げ、WhisperGenのCHPを量産し、2008/2009年冬に発売を予定と 発表(2008年1月)したが中止。
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米国Sunpowerのライセンスに基づき1kW級エンジンを英国BGグループが家庭向CHPシステム用に 研究開発(〜2000)。その後、本エンジンはオランダMEC(Microgen)により中国MECにて量産化され、 2010年家庭向CHP並びに2015年バイオマスボイラ用に販売。
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INFINIAは2009年1月から太陽熱発電装置(3kW)を発売開始したが、その後中止。
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サクション瓦斯機関製作所は、2008年1kW級低温度差スターリングエンジンそして2014年10kW級同エンジンを開発。
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米国Qnergyは2013年に破綻したINFINIAの技術に基づき7.5kWのエンジン発電機を開発そして各種発電ユニットを販売。
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日本のeスターは、2012年に5kWの排熱利用スターリングエンジン発電設備を開発販売、そして2016年には10kW級の同エンジン 発電設備を開発販売。
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スウエーデンCleanergyはドイツSOLOの10kWエンジン技術を移転して2008年に設立されたが、2018年にAzelioに社名変更し、 10kWエンジンを用いた各種発電ユニット(太陽熱発電、多種燃料発電)を開発商品化。
7)
現 在
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オランダMECのエンジン発電機は、家庭用CHPとして、発電出力1kW、給湯能力8.5kWを有し、45000時間の運転実績。
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米国Qnergyの7kW級エンジン発電機は、電力網から離れた場所で使用できる様々な発電ユニット用として販売されている。 日本においては、エコステージ社が本エンジン発電機を既に50台ほど販売。
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スウエーデンAzelioは、開発した蓄熱体を用いて熱媒を介してスターリングエンジンを加熱するシステムを開発し、 太陽熱利用発電等に利用。
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eスターはヤンマーeスターに社名変更、自社開発の排熱利用スターリングエンジン発電設備をモニター販売。
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